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言語科学とは

言語を科学的に分析

人間は高度に発達した言語をもっており、これはほかの生物にはない人間としての特徴です。言語科学研究室では、生命科学部の一つの研究室として、言語を実証的に研究しています。特に以前の研究室名(EFL: English as a Foreign Language)の時からの研究テーマである外国語として第2言語を習得することにまつわる諸問題や科学で使用される英語の分析などを中心に応用言語学の研究を行っています。

言語科学研究室では言語を科学的に分析します。従って研究方法も客観的な資料を使い、論理的な方法で分析することが中心になり、研究は基本的に実証研究を行います。しかし、理論的な背景を知らないと研究を始めることができません。

言語学は生命科学のように学際的な分野です。日本では言語学として1つの領域として認識されることが少ないのですが、欧米では日本よりもずっと言語の研究が盛んです。例えば、生命科学の研究でもとても有名な研究所にマックスプランク研究所(Max Planck Institutes)という研究所がヨーロッパ各地にありますが、言語学専門の部門があります。日本では、文学部の中に入っている場合がありますが、実際には研究方法も論文の書き方も文学とは全く違う,むしろ社会科学系、或いは、心理学に近いと考えられます。

言語学はいくつかの分野で構成されています。代表的な分野を紹介してみましょう。
 

音声学と音韻論

音声学:人間の言語として使用される口から出る音を分析します。英語と日本語では,使う音が違います.母音も子音も違いますし、語として構成される音の成り立ちもずいぶん違います。音声学では、口でどのように音を出しているのか、そして、それらの音を一つ一つ記述していきます。それを記述する記号をIPAと呼びます。これは、英語を習うときに使った発音記号とほぼ同様のものです。音声学者はどんな音でも人間が言葉として出す音をこのIPAで記述することができます。人間の言語が発達した1つの理由は、人が沢山の音を口から出すことができるので、それを利用して複雑な情報を伝えることができるようになったからに違いありません。

音韻論:音声学は個々の音に注目しますが、音韻論は言語として人間が音をどのように区別するか,ということに注目しています。例えば、日本人はよくLとRの発音を間違えるといわれています。日本語には、ら行の音はありますが、ら行の音は、たとえばアメリカ英語のLの音ともRの音とも厳密には違います。でもたとえば英語でloveといえば日本語ではラブと書きますし、runningといえばランニングとLもRも同じ音のように扱います。これは、日本語では、Lの音もRの音も同じら行の音と認識されるからです。どの言語にもそのようなことがあって、それら同じ音とみなされる違う音を『異音』といい、それらをまとめるものを『音素』と言います。音韻論はこのように言語の音を抽象化させて分析する分野です。英語を学ぶときは、音韻論の知識が少しあると、発音に気をつけるようになって、話すことに自信がつくようになります。例えば、日本人があまり気にしない違いに、有気音、無気音の区別がありますが、英語の場合、有気閉鎖音のpitの発音は、日本人がなかなかできない音です。要するに空気をたくさん一気におしだすように出すピッという音です。空気が口の中を通る音も加わります。しかし、pitのまえにsが来るspitの時は、空気があまり出ないように発音します.韓国語などは,有気音と無気音はハングルの文字が違います。音韻論では、これらの音の違いだけでなく、アクセント、イントネーションなど『韻律』に関する事も研究対象になります。
 

形態論、意味論

形態論は英語で言うとmorphologyです。生物でもこの言葉は使われますが,言語学では,1つの語の構成要素がどのように結びついているかを研究します。人間はいろいろな語を作り出していますが、それにはある種の決まり事のようなものが作用しています。面白いことに、言葉を作り出している人は必ずしも形態論的なルールを知っているわけではないのに、言葉はそのルール通りに作られたりします。形態論の知識があると、単語を覚えるのに少し便利です。英語の語彙は、語幹、接頭辞、接尾辞などのパーツで構成している事が多く、長い語もばらばらのパーツが理解できれば、綴り方も正しく覚えられるし、意味も分かりやすいです。

意味論はsemanticsといいます。語には形と音と意味があります。意味というものをセンテンスのレベルで考えると,文字通りの意味というのが意味論が対象として取り扱う意味です。伝わる意味で考えるのは、語用論の仕事です。同じように、文法の中でも意味が必要なことがあります。文法では、例えば直接目的語をとる他動詞を使ったSVOの文を作ったとします。意味を考えなければ、SとOに適当な名詞をいれて他動詞を使えば,統語論的には正しいですが、意味論的には正しくないものができます。例えばeatとという動詞がありますが、I eat a piece of cake. は統語論的にも意味論的にもよい文ですが、A pieace of cake eats me.としたら意味論的には,だめな文になります。なぜなら意味論的に考えるとeatという動詞は,動作主に口がある動物や人をとり、目的語には口に入れて生きる栄養となるものが入るという意味論的な制限があるからです。英語の文章を書くとき、日本語と英語で対応する言葉でも意味論的に違いがあるものに気をつけると,間違いが少なくなります。
 

統語論

統語論:統語論はsyntaxと呼ばれています。コンピュータのプログラミングでもおなじみの言葉です。これは語と語がどのような順番でつながるかということを分析する分野です。(実際は統語論がどこからどこまでを見るかは理論的には複雑なので、ここでは割愛します)

統語論というと生成文法との関わりが大きく,アメリカの言語学では主に生成文法(ノーム・チョムスキーというMITの言語学者が中心)を指すことが多いと思います。生成文法は実は形態論や意味論もその理論の中に入れているので、統語論だけを取り扱っているわけではありません。生成文法を簡単に説明するのは,非常に困難ですが、まず重要な点として、文法というのは、文法書に書いてあるようなものが頭に入っているのではないということです。生成文法で考えると、文法はもっと抽象的なもので、人間には生まれつき言語習得のために特殊な脳の部位 (LAD Languaeg Acquisition Device)があるという仮説を基に発展させてきたものです。なぜ、猿は人間の言語を学べないか、という事に対する答えとして考えれば分かりやすいと思います。

それで、すべての人類は、その能力(UG=universal grammar)を持って生まれてきて、言語のある環境で育つとUGのparameter(切り替え装置みたいなもの)を切り替える事ができて、その言語のparameterに合うようになり、それが言語を習得するということになるというわけです。言語学者は世界中の言語を分析して、共通点を探しもとのUGがどのようなものか導き出そうとしています。それで、生成文法は時間が経つにつれて抽象的なものに変わっていきました。生成文法で考えると日本語と英語は、構造的にそれほど違いがないものになります。語順の違いは、parameterの1つの違いにしかならないと考えればの話ですが。

生成文法は実は言語学習には、結構有効なもので文法の間違いを減らすことができます。文法のルールを一つ一つ覚えるのは、ものすごく大変ですが、基本的な原理を知っていれば、それを応用することができます。母語話者は文法のルールを知らなくても言葉が使えますが、非母語話者はそれがなかなかできません。頭の中のparameterの設定に問題があるからですが、他の言語でのparameter設定を知っているとすぐそれに気がつくようになるから自分で気をつけている内に覚えてしまうからじゃないかと思います。
 

語用論

語用論は言葉を使われたコンテキストの中で分析するものです。例えば、『あれは何』というような文の時「あれ」が何を指すのかは、文脈の中でしか理解できません。最近使われ方が変わってきた表現に『大丈夫です』があります。以前は『結構です』と言っていたものが、最近は『大丈夫です』に変わりつつありますが、この『大丈夫です』は用法が拡大している表現の1つです。言葉は変わっていくものなのですが、このような変化は語用論においての変化だと考えられます。

語用論は理論言語学に含まれますが、応用分野でひろく研究されているものでもあります。生成文法では、理論で説明できない現象は語用論によるものだとして、語用論は『ゴミ箱』扱いされています。

語用論の中心的な理論の1つは、『言語行為理論』と呼ばれる言語を使うこと自体が『行為』であるという理論です。あと1つは、「協調の原理」と呼ばれる婉曲な表現を理解するプロセスを説明したものです。両方とも言語哲学の分野で発展してきたものなので理論的なもので実証的なものではありません。しかし、実証研究は,これらの理論の枠組みを使って行われていて、特に異文化間のコミュニケーションの研究に語用論の理論が使われることが多いです。