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応用生命科学科   生命科学(バイオ)の力で食品・環境・エネルギーの未来を拓く

環境生命科学・環境ゲノム学・農芸化学・生命理工学分野東京薬科大学 生命科学部 大学院 生命科学研究科



 
 
応用生命科学科 まめ知識
      
  1. 植物のリン獲得戦略
  2. 大気球実験とものづくり
  3. 遺伝暗号は進化する
  4. 「生命科学」ではないけれど、役に立つかな まめ知識
  5. 光合成の二酸化炭素固定 ―C3回路とC4回路― 
  6. 老化が起こるしくみ その2 
  7. (イラスト:平成23年度

    卒業生 金子浩子さん)
    食中毒は12月から1月が最も多い! 
  8. 食品の「糖類ひかえめ」と「甘さひかえめ」の違いって? 
  9. 火星に生命はいるか? 
  10. 多能性幹細胞とiPS細胞             
  11. 地球上のすべての生物は、一つの共通祖先生物から進化した親戚なのだろうか?  
  12. “バクテリア”と“細菌”.同じもの?それとも違うもの?  
  13. バクテリオファージの利用  
  14. 微生物のエネルギー源  
  15. 老化が起こるしくみ その1  
  16. タンパク質の実用化とタンパク質工学  
  17. 食欲の調節について  
  18. シアノバクテリアの進化と葉緑体  
  19. 牛を殺すプランクトン 
  20. 鉄鉱石と生物 
  21. プロトプラスト と 細胞融合 
  22. ミジンコの生殖(単為生殖と有性生殖) 
  23. 地球上で最も多量に存在する脂質って何? 
  24. 微生物の数 
  25. シカラクトンはオグロジカの"香水"フェロモン? 
  26. ミジンコ研究の歴史       
  27. 太古の地球で植物プランクトンから石灰岩が作られました!       
  28. 石油のもとは植物プランクトンだったということをご存じですか?       
  29. 森林の中に入ると涼しいのはなぜでしょう?       
  30. 森林の林床に落ち葉がたくさん積もっているのはなぜでしょう?
 

植物のリン獲得戦略


 多くの陸上の植物は、土壌から窒素やリンなどの栄養塩を吸収して、アミノ酸やタンパク質、DNAなどを合成しています。野外では、窒素やリンが不足する場所が多いです。植物は窒素不足やリン不足にならないために、さまざまな戦略をもっています。マメ科植物やハンノキのなかまは、バクテリアや放線菌と共生して、大気窒素をアンモニアにするしくみ(窒素固定)をもちます。

 リンに対して、植物にはどのようなしくみがあるのでしょうか?リン不足に対して、植物は菌根というしくみをもっています。菌根とは、植物の根に担子菌などの菌類が共生しているものです。秋の森林には、さまざまなキノコが生えています。キノコは、樹木と共生している担子菌が胞子を飛ばすためにつくっている子実体です。キノコをつくらない季節でも、菌類は菌糸を土壌内にはりめぐらし、リンを吸収し、共生している植物に提供しています。代わりに植物は、光合成から得られた炭水化物を菌類に提供しています。植物のなかには、このような菌類との共生関係から、寄生関係に変化したものもいます。ランのなかまには、ツチアケビやマヤランのように光合成する葉をもたないものがいます。このようなランは、菌類に寄生して、リンだけではなく窒素や炭水化物も獲得しています。ギンリョウソウも菌類に寄生している植物です。

水耕栽培したシロバナルピナス。写真の下のほうにブラシ状に生えるクラスター根が見える。

 多くの植物は、菌類と共生する菌根をもつことでリン不足にならないようにしていますが、すべての植物が菌根をもつわけではありません。リンが少ない環境でも菌類と共生しない植物がいます。1つのタイプは食虫植物です。食虫植物は、捕獲した昆虫などから窒素やリンを得ています。もう1つのタイプはクラスター根をもつ植物です。日本にはクラスター根をもつ植物種はほとんど自生していませんが、オーストラリア大陸の西海岸や南アフリカなどでは、土壌のリンが非常に少ないのに、菌根を形成しないクラスター根をもつ植物が多く見られます。それでは、クラスター根とはどんなものなのでしょうか?

 クラスター根は、写真のシロバナルピナスの根のように、側根が密に生えているブラシ状の根です。このブラシ状の根からは、クエン酸などの有機酸やフォスファターゼなどの酵素が土壌に放出されます。クエン酸やフォスファターゼをつかうことで、植物は直接吸収できないタイプの不溶性のリンを可溶性のリンに変化させることができます。ブラシ状のかたちは、土壌内で局所的に有機酸やフォスファターゼの濃度を高めて、可溶性のリンを吸収することに役立っているようです。

 クラスター根をもつ植物種には、高濃度のリン肥料をあげると枯れてしまうものもいます。枯死してしまうしくみはまだわかっていませんが、そのような植物種を保全するためには、生活排水を気をつける必要があります。(野口)
 

大気球実験とものづくり

図1. JAXA 大樹航空宇宙実験場。左が格納庫(高さ34.9m)、右が実験室および管制塔。野ウサギとシカを見ました。

図2. 上空微生物の捕集方法と微生物の分布


 2015年8月、成層圏に浮遊している微生を大気球で捕まえるために北海道大樹町(帯広地区)に来ています (図1)。千葉工業大学惑星探査グループ、大野宗祐研究員を代表とする成層圏での微生物捕集実験に共同研究者と参加しているためです。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の気球グループが大気球のセッティング、打ち上げ等の実際の作業を行います。

 これまで、地球上空に微生物が存在するかを調べるために航空機、大気球、ロケットを用いて調べられてきました (図2)。その結果、対流圏(高度0-11 km)では胞子を作成する枯草菌(納豆菌の一種)、放射線に高い耐性をもつ微生物や、マイコプラズマなどわれわれの身近にいる微生物が発見されました。さらに上空の成層圏(11-50km)では微生物密度が低くなるものの、胞子を形成する微生物が発見さした。これまでの採集実験の最高到達高度は77kmです。それ以上の高度での微生物の有無はわかっていません。そこで、高度約400kmを周回する国際宇宙ステーションで微生物の捕集実験を行うたんぽぽ計画が行われています。

 さて、これまで大気球を用いた微生物の捕集実験では、採集装置が気球の下に設置してあることから大気球由来の微生物が捕集されているのではないか、という問題点が指摘されてきました。この問題点を解決するために、千葉工大のグループでは微生物を採集するために採集装置の吸引口を下に向け、気球が落下する際に吸引口を一定時間開き、閉めるという独自の装置を開発されました (図3)。採集装置を一から設計し、それを形にして、気球実験用の装置に取り付け完成させるというのは並大抵の作業量ではなく、幾度ものトラブルを解決して、さらにトラブルを解決するということを幾度も繰り返します。些細な問題でも必ず議論し、どうするかをみなで考え答えを出します。その答えが間違っていて、もう一度振り出しに戻りやり直し、ということも多々あります。かつて、スペースシャトルのチャレンジャー号はたった一つのOリングに不備があったことが原因で爆破し、宇宙飛行士の命が断たれました。大気球実験では人命はかかってはいませんが、多くの人の労力と国民の税金で成り立っています。私が参加したのはわずかな時間でしたが、千葉工大のメンバーが、早朝深夜にわたり、細部まで決して議論をないがしろにしない姿勢と、問題が起こっても乗り越えるバイタリティーを間近で経験し、本当に勉強させていただきました。生物学者の多くは、既存の装置を使い研究を進めることが多いですが、今後は自分たちの知りたいことを知るために装置を設計し作り上げることが非常に重要になってくると感じました。


図3. 採集装置、バッテリー、制御部、フロートをのせたゴンドラ。これを気球に吊るし、上空に持ち上げる。

 ちなみにこの大気球実験は天候不備とジェット気流が弱いという理由でまだ実施されていません。再度チャレンジし、今後の解析で上空微生物の生態を明らかにしたいと思います。(河口)


 

遺伝暗号は進化する 


 遺伝子の本体はDNAです。その遺伝子の情報に基づいてRNAが作られ(転写)、タンパク質が合成されます(翻訳)。合成されたタンパク質が酵素を初めとした様々な役割を果たすことで、細胞は生き続けていくことが出来ます。しかし、DNAの情報は、A、G、C、Tの4文字からなる言語(塩基配列)で書き綴られているのに対して、タンパク質の情報は20種類の文字からなる言語(アミノ酸配列)で書き綴られているので、「塩基配列」を「アミノ酸配列」に変換する仕組み、ルールが必要になります。

 この塩基配列とアミノ酸配列との変換ルールを遺伝暗号と言います。3文字からなる塩基配列の単語、これをコドンと言います。コドンは64種類あり(4×4×4)、20種類のアミノ酸と対応させるには十分な数があります。実際には、61種類のコドンが20種類のいずれかのアミノ酸に対応し、3種類のコドンはどのアミノ酸にも対応していません。アミノ酸に対応しない3種類のコドンは終止コドンと呼ばれ、句点やピリオドとしての役割を持っています(これらのコドンが遺伝子中に出現したら、そこでその遺伝子の作るべきタンパク質の合成を終了すると言う目印として)。表1に、64種の遺伝暗号とアミノ酸との対応表(これを遺伝暗号表と言います)を示しました。

 表1で示した遺伝暗号表は、すべての生物で共通して使われています(そこで普遍遺伝暗号表または標準遺伝暗号表と言います)。ヒトと酵母、大腸菌、温泉などに棲む超好熱菌とで、姿形は異なり、生き方や生きている環境が大きく異なっていますが、タンパク質を作るための塩基配列とアミノ酸配列の対応ルール(これが正に遺伝暗号)と言う大事なルールは、共通です。ですから、ヒトの遺伝子を酵母や大腸菌の細胞の中で働かせて、ヒトのタンパク質を作ることもできます。また、色々な生物を渡り歩くウイルス(例えばインフルエンザウイルス)が、違う種類の生物の細胞の中でも自分の増殖に必要なタンパク質を作らせることができるのも、遺伝暗号表が共通だからです。さらに、タンパク質を作るために必要なルールがすべての生物で共通であることから、現在地球上に存在するすべての生物は共通祖先を持っていると考えられています。



 表1 標準遺伝暗号表

 非極性アミノ酸は緑色、極性アミノ酸は黄土色、酸性アミノ酸は赤色、塩基性アミノ酸は青色で示している。メチオニンは非極性アミノ酸だが、AUGコドンがタンパク質合成開始のために重要な役割を果たす「開始コドン」を兼ねているため、色を代えて示している。


 前の段落で「表1で示した遺伝暗号表は、すべての生物で共通して使われています」と書きました。しかし、これは正確な表現ではありません。実は、表1で示した遺伝暗号表と少し異なる遺伝暗号表を使っている生物が色々と知られています。これらは、いわば方言で、標準遺伝暗号表から進化して生まれて来たものです。例えば、私たちを構成している細胞の中にはミトコンドリアという細胞小器官があります。これは元々独立して生活していた真正細菌が真核生物の祖先の細胞の中に共生したものが、独立を失って真核細胞の一部になってしまったものです。そのため、細胞の核とは別に、ミトコンドリアはその中にDNA(ゲノム)を持ち、細胞質とは別に、ミトコンドリアはタンパク質を作るためのシステムを独自に持ち続けています。ところが、私たちヒトを含む脊椎動物のミトコンドリアでは、核・細胞質で使われる表1で示した標準遺伝暗号表とは少し違った遺伝暗号表(表2)を使われていることが判っています。また、脊椎動物の非常に近い親戚である尾索動物(ホヤの仲間)や頭索動物(ナメクジウオの仲間)のミトコンドリアは、それぞれ脊椎動物ミトコンドリアとは異なった遺伝暗号表を使っているのです(表2)。その上、そのような遺伝暗号表の方言は、ミトコンドリアに限らず、色々な真正細菌(例えばマイコプラズマの仲間)や真核生物の核・細胞質(例えば繊毛虫(ゾウリムシの仲間)の仲間)にも見られます。

 遺伝暗号という塩基配列とアミノ酸配列の変換ルールは、様々なタンパク質やRNA(特にtRNA)の働きによって、正確にタンパク質合成の過程で使われています。遺伝暗号が進化すると言うことは、そのようなタンパク質やRNAが「協調的」に進化することによって、初めて実現することです。(横堀) 

   

             表2 脊索動物ミトコンドリア遺伝暗号表
 
 AUAコドン、UGAコドン、AGAコドン、AGGコドンが標準遺伝暗号表と異なる。また、AGAコドンとAGGコドンは頭索動物(ナメクジウオ類)、尾索動物(ホヤ類)、脊椎動物の間でも異なる。
 

「生命科学」ではないけれど、役に立つかな まめ知識

卒業生とベンソン先生夫妻

以前 講演にきていただいた時の Andrew A. Benson(「カルビンーベンソン回路」で有名なベンソン先生、Andy)夫妻と都筑研究室メンバー。最後列の右から5番目がベンソン先生。

 欧米で生活してみると、日本人に困ることがあります。その一つが名前。彼らの中に入って、”Bob” だとか ”Bill” だとか、名前を覚えたのはいいのですが、日本に帰って手紙など書こうとすると、「正確な名前がわからない!」という事態に陥ることがあります。私の知っている方々、例えば Gerry は Gerald、Bob は Robert、Andy は Andrew が正式名。調べてみると、「英語の短縮形」とか「呼称」という形で出てきます。

 Robert は Bob、William は Bill、Gerald が Gerry、Kendrew は Ken、Marshal は Hal、James は Jimmy、Anthony は Tony、Andrew は Andyと呼ばれます。
 女性も Ann やAnne が Nancy、Catherine や Cate は Cathy や Cassie に、Christine や Christin が Chrisと呼ばれることが多いようです。
 日本人にとって、あまり常識の中にないところなので、注意かもしれません。(都筑)
 

光合成の二酸化炭素固定 ―C3回路とC4回路― 


 光合成の炭素代謝は、カリフォルニア大のバークレイ校でM. CalvinとA.A. Benson、そして、J.A. Basshamらが明らかにしました。彼らは、微細藻類であるセネデスムス (Scenedesmus) やクロレラ (Chlorella) の光合成経路を14Cという放射性同位元素とペーパークロマトグラフィーという分析技術を用いて解明しました。その結果、5炭糖のリン酸化合物であるリブロース1,5-二リン酸 (RuBPと略) にCO2が結合して、2分子の3炭糖リン酸グリセロアルデヒド3-リン酸 (3PGと略) ができること、炭素数が4~7のリン酸化合物を中間代謝産物 (代謝経路の中で作られる化合物) となって、また、RuBPにもどることが明らかになりました。この回路が回転しながら、葉緑体の中でデンプンが作られ、一方、一部が細胞質に出てショ糖が作られることが明らかになっています。
 この回路は、「カルビン-ベンソン回路」とよばれていますが、短くして「カルビン回路」という人もいます。実は、当時のことをよく知る研究者は、ベンソン氏の貢献の大きさから、言葉の短縮を好まず、「カルビン-ベンソン回路」とよんでいます。その時の微妙な人間関係は、アメリカ植物科学会 (American Society of Plant Biologists) のインタビューでも語られています。そこで、人の名前をつけるのでなく、最初の産物3PG (この化合物の炭素数が3つ) にちなんでC3回路を選ぶ人もいます。また、RPP回路 (Reductive Pentose Phosphate 回路、還元型五炭糖リン酸回路) とする人もいます。

 このC3回路が明らかになった後、この結果を確かめようと、世界中で追実験が行われました。ハワイのH.P. Kortschakらがサトウキビで調べたところ、異なる結果となりました。この結果が、特殊な時に起こる現象ではなく、サトウキビの特徴であることを示すためにいろいろ実験を繰り返したようです。そこで、オーストラリアの製糖会社で研究をしていたM.D. Hatchらがトウモロコシで調べ、まず、炭素数4つのオキサロ酢酸ができ、リンゴ酸やアスパラギン酸になる炭素代謝系、C4回路を見出しました。「カルビン=ベンソン回路」をC3回路とよぶ理由もここにあります。Hatchは、日本の天皇陛下からいただく賞、国際生物学賞を1991年に受賞しています。
 C4回路は、回路の途中でCO2(正確には、HCO3-)を放出します。放出されたCO2(HCO3-がCO2に変化して)は、C3回路に固定され直す仕組み(RuBPとの反応はCO2)になっています。こうした植物の葉では、C3回路の働く細胞(維管束鞘細胞)とC4回路の働く細胞(葉肉細胞)に分かれていることが特徴的です。C4回路をもつ植物は、C4植物と言われますが、イネ科のトウモロコシやサトウキビだけでなく、カヤツリグサ科やヒユ科、アカザ科など、単子葉双子葉の複数の科に分布して見られます。それぞれの科の中で、C3植物とC4植物が見出されるのです。
 C3植物のササは、維管束のまわりにある維管束鞘細胞に葉緑体がなく、一方C4植物のエノコログサは維管束賞細胞に葉緑体が多く存在するため、維管束のまわりが、つまり筋状に緑に見えるのです(写真)。なお、C3植物では、葉肉細胞にあたる柵状組織と海綿状組織の細胞でC3回路が働いています。
 イネや小麦、ホウレンソウなどの穀物や野菜の多くは、C3植物ですが、熱帯や亜熱帯のやや乾いたところにC4植物が多く見られます。強い光、少し高温の下で、高い光合成効率を示します。CO2濃度が低いところでも光合成ができますので、有用な植物を“C4植物にしたい”という考えで研究している研究者もいます。一つの夢を実現しようというところです。(都筑)
 
  

光合成の違いによる葉の特徴
左: エノコログサ 右: ササ
解説:光合成における二酸化炭素固定方法が、ササはC3型、エノコログサはC4型.そのため、ササの葉脈は白く抜けているのに対し、エノコログサの葉脈は緑が濃くなっている.

メヒシバ
C4植物は空に掲げるとわかる
 

老化が起こるしくみ その2 


 「老化が起こるしくみ、その1」で、細胞には寿命があり、一定の回数以上は分裂することができないこと。その原因の一つとして染色体の「テロメアの短縮」という現象をあげました。
 一方で、私たちの体の中には、通常の体細胞とは異なりテロメアの短縮が起こらず、細胞分裂する能力が衰えない、つまり寿命のない細胞が存在します。それは、生殖系列の細胞です。精子、卵子を生み出す生殖細胞は分裂を繰り返してもテロメアの短縮は起りません。そうでなければ、年齢が高い両親から生まれた子供は、若い夫婦から生まれた子供に比べて、テロメアが短くなってしまう、つまり生まれたときから老化が進んでいる、ということになってしまいます。現実にはこの様なことは起こりません。その理由は、生殖細胞では、短縮したテロメアを修復するテロメラーゼという酵素が働いているからです。
 テロメア短縮の起こらないもう一つの例はがん細胞です。がん細胞は、もともとは、正常だった細胞の遺伝子に変異が生じてしまったために無限に増殖する性質をもってしまった細胞です。正常な細胞の場合、分裂が進むに従ってテロメアの短縮が進み、ある一定以上は分裂しなくなります。しかし、がん細胞では、テロメラーゼの活性が高くなっているために細胞分裂をいくら繰り返しても、テロメアの短縮は起りません。つまり、がん細胞が無限に増殖を繰り返すようになってしまった理由の一つとしてテロメアの短縮が起こらなくなってしまった事が考えられます。将来、がん細胞のテロメラーゼを阻害する薬剤を見つけ出し、がん細胞が無限に増殖することを防ぐことによって、がんの治療に利用することが可能になるかもしれません。
 今までの話から、一つ一つの細胞の寿命にとって、テロメアが重要な働きをしていることはわかりました。しかし、マウスの染色体を見てみると、テロメアが非常に長く、一個体の一生の間には細胞分裂が止まってしまうほどのテロメアの短縮は起こりません。これは、細胞の寿命と個体の寿命は必ずしも一致しないことを示しており、テロメアと個体の寿命との関係については今後のさらなる研究が必要です。 (高橋 滋)

 

食中毒は12月から1月が最も多い!

 食中毒の発生というと、ほとんどの人が6月から8月が多いと思っています。梅雨時期で湿度も温度も高く、カビが生えやすく食品が傷みやすいからでしょう。しかし、統計を見ると患者数は7月が1年中で最も少なく、12月から1月にピークがきます。これは食中毒患者のおよそ半分がノロウィルスと呼ばれるウィルスによるもので、冬場に多発するからです。7月が少ないのは、食中毒に対する関心が一番高まっているからでしょうか。食中毒の防止には、なんと言っても清潔・洗浄、加熱・殺菌が効果的です。寒い冬だからこそ気をつけなければならない食中毒です。(食品科学概論の講義から、太田)

 

食品の「糖類ひかえめ」と「甘さひかえめ」の違いって?

(イラスト:金子浩子さん)

 糖類(ブドウ糖や砂糖など)の含有量が、飲み物の場合は100 mLあたり2.5 g 以下(つまり2.5%以下)であれば、「糖類ひかえめ」と表示できることが栄養表示基準で認められています。一方、「甘さひかえめ」は栄養表示基準にはありません。甘さというのは味覚の表現で個人によっても異なり、糖類の量を示す指標にはなりません。多くの場合、そのメーカーの通常の製品よりも糖類の添加量を少なくしていることを表していますが、100 mLあたり2.5 g 以下の基準を満たしてはいません(満たしていれば「糖類ひかえめ」と表示できる訳ですから)。「甘さひかえめ」は「糖類ひかえめ」とは限らないということです。紛らわしいですね。100 mLあたり2.5 g 以下の場合に用いることのできる強調表示には、その他に「低糖」「微糖」などがあります。 さらに「無糖」や「ノンシュガー」、「シュガーレス」の強調表示ができるのは100 mLあたり0.5 g 未満(つまり0.5%未満)の場合にだけです。「無糖」とは言っても完全にゼロではありません。また、オリゴ糖や甘味料のキシリトールなどは「糖類」には分類されていないため、「無糖」の食品でもこれらが含まれている場合もあり、「無糖」=「カロリーゼロ」とは限りません。(食品科学概論の講義から、太田)

 

火星に生命はいるか?

火星

火星人はいるか?
 まだ、望遠鏡の解像度が余り良くない時代、火星の表面に運河のような網目模様が観察された。これを見て、火星には火星人がいて高度に発達した文明により運河を造っていると考えたひともいた。火星人が攻めてくると言うラジオ番組の放送を聞いたアメリカ市民が、それを本当の話だと信じてしまい、パニックになったのは1938年の事であった。
 それ以来、望遠鏡の観測技術も高まり、20機にもなる探査機が火星の探査をおこなった。その結果、火星には運河はもちろん液体の水はほとんど残っていないことも明らかとなった。火星に火星人がいる可能性は全く無い。 

(イラスト:平成23年度卒業生 金子浩子さん)

火星からの隕石に生命の化石?
 1996年アメリカ航空宇宙局(NASA)の研究者達は火星からの隕石 ALH84001に微生物様の化石があることを発表した。化石は小さい(1μメートルよりもさらに小さい)ミミズのような形をしている。ミミズの節に相当する構造は細胞の様にも見えた。また、隕石には有機化合物も検出された。
 まず、なぜ隕石が火星から来たということが分かるのだろうか?これは隕石中に含まれるガス成分の分析から分かる。ガス成分のなかの微量成分が火星の大気の成分比率に非常によく似ていたのである。これは、この隕石が火星から来たということを強く物語っている。
 しかし、化石と思われた構造物が生命かどうかに関しては否定的に考える研究者が多い。まず、細胞が少し小さすぎる。細胞には必ず表面の膜(細胞膜)があるが、その分子の大きさとしてどうしても必要な大きさがある。また、生き物であるならばなにか遺伝物質を持っているはずである。遺伝物質はDNAではないかも知れないが、それにしても遺伝子を持っているはずである。こうした必要な最低の細胞の大きさに比べて、隕石中の化石は小さすぎる。さらに、ミミズの様な構造は生物以外の反応でもできることが知られている。有機物も、隕石に非生物的に含まれていることは良くある。NASAの研究者はまだ、この報告を撤回していないが、現時点では火星隕石の構造を生物の化石とするのは大分無理がある。

火星に有機物はない?
 逆に「火星に有機物はない」という結論が見直されている。1970年代バイキングという名の探査機が火星に着陸し、有機物の分析を行った。有機物は検出されず、有機物は検出限界以下であるという結論が出された。それ以来、火星には有機物も、だからおそらく生命もいないだろうという理解が研究者間に広まった。
 それが、最近の研究で大きく見直されつつある。それは、有機物の分析方法と火星の土の特徴にある。火星の土は非常に酸化的であることが分かってきた。そして、酸化的な土に有機物がある場合には、バイキングで用いた有機物分析方法をもちいると有機物は酸化してしまって検出できないことが分かったのである。NASAと欧州宇宙局(ESA)が合同で火星に送った探査機MSL(Mars Science Laboratory)は2012年8月に火星に到着した。今後、改良した装置で火星の有機物を再調査する予定である。

火星に水は無い?
 初期の着陸機は火星の表面の写真を送ってきた。火星表面はひからびた砂漠で水は見あたらなかった。しかし、その後多くの探査によって、少なくとも火星史の初期には水はあったこと、水の流れた後と思われる地表の構造が現在も残っていること、そして火星の北極と南極の地下には現在も大量の氷が眠っていることが明らかとなった。ごく最近、地下から流れ出た水のあとも見つかってきている。何回か撮影した写真を見比べると、その間に何かが流れた後が写っていたのである。火星の地下にはまだ液体の水もあるかも知れない。

火星表面では地球生命も生存可能?
 火星の表面は大気も薄く(地球の7/1000程度)、温度も低い。火星表面は過酷な環境である。しかし、かりに地球生物を火星表面に持って行ったとすると、かなり長い間、生きながらえることが実験的に分かって来ている。

火星表面での生命探査計画 
 日本の10を越える研究機関の研究者達は今、火星での生命探査計画の準備を初めている。光学顕微鏡を探査機にのせて火星へ運び、火星の土を顕微鏡で分析しようという計画である。探査車は自動的に土を堀り、顕微鏡で自動的に撮影し、画像を自動的に地球に送る。こうした計画はNASAもESAも予定していない。

もっと詳しいことは「地質学雑誌」という本の2012年118巻10号675-682ページ(山岸明彦著、火星における欧米の生命探査とMELOS計画での生命探査)あるいは日本惑星科学会誌「遊星人」2011年20巻2号108-116ページ(山岸明彦著、火星での生命探査計画)を読んでみて下さい。(山岸)

 
火星表面(左)と火星生命探査(右)
 

多能性幹細胞とiPS細胞


多能性幹細胞とiPS細胞

 皆さんは「骨髄バンク」という言葉をご存じでしょうか。骨髄バンクは、骨髄液を提供できる人(ドナー)を登録したシステムのことで、白血病などの血液病の治療法として大切な骨髄移植を支えています。骨髄液には、赤血球や白血球などのさまざまな血液細胞を造り出す基になる細胞が存在します。そのような細胞を「造血幹細胞」と呼びます。骨髄移植は、造血幹細胞を利用した治療方法の一つです。

 私たちの体は、一個の卵(らん)が精子と受精することから体作りが開始されます。別の言い方をすると発生が始まります。受精したばかりの細胞は将来、体のどのような細胞にも「分化」できます。細胞がある決まった働きをする細胞に近づくことを細胞が「分化」するといいます。受精したばかりの細胞は分化的に全能性を持っている幹細胞です。この幹細胞は、将来、胎盤の一部に分化する細胞と、体のすべての細胞に分化する「多能性幹細胞」に分化します。つぎに、多能性幹細胞は、肝臓や心臓や血液など、特定の組織の基になる細胞である「組織幹細胞(体性幹細胞ともいう)」に分化し、やがて、私たちの体ができあがります。

 造血幹細胞は組織幹細胞に分類される幹細胞です。もし、血液から白血球のような細胞を集めて、試験管の中で「リセット(初期化)」させて多能性幹細胞を人工的に作り出し、造血幹細胞に分化させることができれば、造血幹細胞を骨盤から取り出す必要はなくなります。

 ノーベル賞を受賞された山中伸弥先生が作り出した「iPS細胞」は、「人工多能性幹細胞」ともいわれます。分化した皮膚や血液などの細胞に、分化をリセットする4種類の遺伝子を入れて人工的に作り出した多能性幹細胞です。近い将来、iPS細胞を利用することで造血幹細胞を作りだし、治療に利用できる日が来ると期待されています。

 このように細胞や遺伝子を扱う先端バイオテクノロジーは、iPS細胞を作る研究を支える大切な技術にもなっています。(高橋勇二)

 

地球上のすべての生物は、一つの共通祖先生物から進化した親戚なのだろうか?

タンパク質合成装置の一部であるrRNAの塩基配列の比較に基づくと、地球上の生物は「真正細菌」、「古細菌」、「真核生物」に大別できる。これらの共通祖先である「コモノート」はどのような生物だったのか、そもそもコモノートは存在したのかが、今現在も議論になっている。


 地球上のすべての生物は、おおまかには共通の遺伝の仕組み、タンパク質をつくる仕組み、そして共通の代謝系を持っています。こうしたことから、地球上の全生物は一つの祖先生物から進化してきたのではないかという考えが広まりました。全生物の「最後」の共通祖先は、LUCA(Last Universal Common Ancestor)、LUA(Last Universal Ancestor)、セナンセスター(cenancestor)、プロゲノート(progenote)等、様々な呼ばれ方をしています。ただし、プロゲノートの命名者は、まだしっかりとした遺伝の仕組みが確立される前の前生物的な段階を想像して名付けました。一方、極限環境生物学研究室では、全生物の最後の共通祖先は、かなりしっかりとした遺伝の仕組みを既に備えていたと考えていますので、これをプロゲノートではなく「コモノート」と呼んでいます。ちなみに、「最後の」共通祖先の「最後」とは、私たちに(現在に)最も近いという意味です。全生物の最後の共通祖先(すなわちコモノート)と地球上に最初に誕生した生命(生命の起源)とを混同する人もいますが、これらはまったく違うものですので、注意する必要があります。
 ところで、すべての生物学者が、かつてコモノートが存在したことを肯定している訳ではありません。そもそも、地球上の生物を進化的に遡っていくと、やがて一つの生物に辿り着くと唱えたのは、「種の起源」の著者として有名な生物学者であるダーウィンです。しかし、種分化以前は、現在の生物のような細胞の形にはなっておらず、しっかりとした遺伝の仕組みを持たない「プロゲノート」であったとする考えも提唱されています。つまり、全生物の祖先は単一な生物として存在したのではなく、遺伝子の交換を頻繁に繰り返していた前細胞的な集団であったという考えです。
 しかし、地球上のほとんどの生物は、生命活動の基本となる部分では共通の特徴を持っています。すなわち、4つの塩基からなるDNAを持ち、タンパク質には共通の20種類のアミノ酸を使い、しかも、DNAに書かれた遺伝情報を元に、機能分子であるタンパク質をつくる仕組みもある程度共通しています。さらに、遺伝暗号も一部の例外を除けば基本的には同じです。こうしたことから、地球上に現存する生物は一つの祖先生物の子孫であるか、少なくとも遺伝装置やタンパク質合成装置など生命活動に必須の遺伝子については同一のものを共有した一つの種から進化してきたと考える方が妥当であるように思えます。実際、2010年にNature誌に掲載された理論的な研究においても、全生物共通祖先生物コモノートの存在が支持されました。(赤沼)

 

“バクテリア”と“細菌”.同じもの?それとも違うもの?


 生物や化学を勉強していると、さまざまな言葉が出てきます。一つ一つ知っていこうとすると、既に学んだ言葉と似ているように思われるのに違うことだったり、あるいは実は同じことを別の言葉で表わしていたり、困ることがよくあります。例えば、ある先生は“細菌”のことを話してくれて、わかったと思ったら、別の先生は“バクテリア”について説明してくれて、同じかなと思ったり、でも別のものかななどと半信半疑になったりすることがあります。さて、2人の先生の話は、別々の話なのでしょうか。
 “バクテリア”は“細菌”の英語であるbacteriaから来ています。これは複数形で、bacteriumが単数形です。つまり同じものなのです。似た例としては、ブドウ糖とグルコース、ホルマリンとホルムアルデヒド、エタノールとエチルアルコール、最近はあまり使われなくなってきましたが、ビールスとウイルスなどがあります。「同じだ!」とわかるだけで科学の理解が深まるということがたびたびあります。その一方で、高校では伝令RNAで習い、大学ではメッセンジャーRNA(mRNA)で話が行われます。大学の人は、“活性酢酸”と言われてもわかりません。アセチルCoAです。科学を学ぶ時、言葉をしっかり理解することが極めて大切です。(都筑)


 

バクテリオファージの利用


 私たちヒトはウイルスに感染すると病気になることがあります。バクテリアに感染するウイルスも存在し、それを特別にバクテリオファージまたは単にファージと呼びます。ファージとは「食べる」という意味で、バクテリアを食べることから名付けられました。ファージが1910年代に見いだされた当初、有害なバクテリアを殺すための物質として、その利用に大きな期待が寄せられました。しかし、抗生物質が後に発見・臨床応用されるようになると、一部の東欧諸国を除いてファージが抗菌剤として顧みられることはありませんでした。現在では抗生物質耐性菌の出現が問題視されるようになり、ファージの抗菌剤としての利用が改めて注目されています。これをファージセラピーといいます。ヒトだけでなく、動植物をバクテリアから守るための抗菌剤としても注目され、特に畜産業・水産業での利用を目指した研究が活発に行われています。さらに、アメリカ食品医薬品局(FDA)は食品添加物としてファージの利用を一部認可しています。
 ファージの研究は遺伝学や遺伝子工学の発展にも大きく寄与してきました。例えば、DNAを連結するための必須の試薬となっているリガーゼという酵素は、T4ファージが大腸菌に感染する際に作られます。またファージディスプレイという遺伝子工学の技術を用いて、天然には存在しない有用なペプチドやタンパク質を創り出すことも行われています。極限環境に生息するバクテリア、たとえば好熱菌に感染するファージも知られています。好熱菌ファージは研究の歴史が浅いので機能がよくわからない遺伝子が多いのですが、高温でも丈夫で、かつ特殊な活性を持つ酵素が好熱菌ファージから発見されれば、画期的な技術開発につながるかもしれません。(玉腰)

ファージの増殖 (P1ファージの場合) : バクテリアに形質導入を引き起こすこともある。(図: 時下)
 

微生物のエネルギー源


 生物は自分自身の体の維持や運動・増殖のために、周りの環境からエネルギーを取り入れています。我々人間を含む動物は他の生物が合成した有機物を分解してエネルギーを得ていますが、光合成を行うことができる植物は太陽光のエネルギーを利用して生育しています。前者のような生物(動物など)を従属栄養生物、後者のような生物(植物など)を光合成独立栄養生物といいます。では微生物はどのようにしてエネルギーを得ているのでしょうか?
 微生物とは肉眼では判別できないほど小さな生物の総称であり、いろいろなタイプの生物が含まれるため、エネルギー獲得の方法も実にさまざまです。動物と同じように従属栄養的に(有機物を分解して)生育するものや、植物のように光合成を行うものもいますが、微生物の中でもとりわけ原核生物(バクテリアや古細菌)がエネルギーを獲得する手段は非常に多彩です。従属栄養的に生育するバクテリアの中には環境汚染の原因となる石油中の成分や発ガン性物質など、動物ではとても分解できないような有機物(難分解性有機物)を分解してエネルギー源にできるものがいます。また有機物ではなく、水素や硫化水素、鉄イオンなどの無機物からエネルギーを獲得できるものさえいます。このような微生物は化学合成独立栄養生物と呼ばれ、太陽光が届かない深海においても、海底火山や熱水噴出孔から湧き出るエネルギー物質(無機物)をエネルギー源として生態系を構築することができます。このように微生物がエネルギーを得る能力は非常に多様性に富んでおり、こうした能力は環境浄化や有用物質の生産などさまざまな技術に応用することができます。そのため世界中の研究者によって新種の微生物の探索やエネルギー代謝のメカニズムの解明などの研究が盛んに行われています。今後の研究によっては従来の常識を覆すような能力を持つ微生物が発見され、人類の役に立つ技術の開発につながることも十分期待されます。(高妻)

熱水噴出孔
 

老化が起こるしくみ その1


 日本人の平均寿命は男79.3歳、女86.05歳となり、男女ともに過去最高を更新したことが、平成21年の厚生労働省の統計により明らかになりました。平均寿命の伸びに注目すると、1950年代には主要先進国中、最低だった日本人の平均寿命は、1970年代から徐々に他の国に追いつき、ついに世界一になりました。ここまで寿命が伸びてきた理由としては、医療技術や食生活の改善などの生活環境の整備が大きな役割を果たしてきたからだといえるでしょう。さて、日本人の平均寿命はこのまま伸び続けて、200歳、300歳まで到達するのでしょうか。そうではなさそうです。今のところ、人間の寿命は最高でも120歳を超えないくらいが限度であろうと推測されています。それでは、なぜ人は老化するのでしょうか。老化が起こる仕組みとしていろいろな仮説が考えられています。主なものとしてプログラム説があります。各生物の寿命を見てみると、線虫10日、ハエ4ヶ月、マウス2年、サル25年、ヒト70年、ゾウ70年というぐあいに、生物種によって決まっています。つまり個体寿命にはある程度のばらつきがあるにせよ、生物種によって生まれてから死ぬまでの時間はあらかじめプログラムされている、という考え方がプログラム説です。1961年米ウイスター研究所のL・ヘイフリック博士は、若い人の体から細胞を採ってきて、シャーレの中で培養してみました。すると、細胞は50〜60回分裂するともうそれ以上分裂しなくなりました。さらに、40歳とか80歳の人から細胞を採ってきて培養すると、細胞の分裂する回数が年齢の分だけ少なくなるということを発見しました。このように、培養細胞の分裂回数に制限があることを「ヘイフリック限界」といいます。一方でヒト以外の動物について細胞の分裂回数を調べてみると、寿命が長い生物種から採取した細胞ほど細胞分裂の限界回数も多くなるということが明らかとなっています。以上のことから、生物の体を構成している細胞には、寿命があって、ある回数以上は分裂できないこと、すなわち細胞には寿命があることがわかりました。細胞が一定の回数以上は分裂することができない理由のひとつとして、染色体の「テロメアの短縮」という現象があげられます。染色体DNAの末端部分はテロメアとよばれ、TTAGGGという塩基配列の繰り返し配列で構成されています。テロメアは、染色体の構造を安定化するなどの役割をもっています。実は、細胞分裂においてDNAが複製されるたびに、テロメアの繰り返し配列部分が端から50〜100塩基ずつ短くなっていきます。細胞分裂が繰り返され、テロメアがある限度を超えて短くなると、染色体の構造が不安定になったり、テロメアよりも内側にある大切なDNA配列が削れてしまいます。その結果、細胞はそれ以上分裂できなくなってしまうというわけです。(高橋滋)

 

タンパク質の実用化とタンパク質工学


 人間は社会を作って生活しています。それと同じように、生き物の体をつくる最小単位である細胞の中にも社会があり、様々な生体分子がそれぞれの役割を果たしながら、生命活動の維持に努めています。細胞内の社会において特に重要な役割を果たしているのがタンパク質です。実際、タンパク質は水分子の次に細胞内に含まれる割合が多い分子です。人間社会では、多くの人が様々な職に就いて、それぞれが必要な仕事をしています。同様に、細胞内においても数千~10万種以上のタンパク質が、それぞれの役目を果たしています。そして、タンパク質が細胞内で果たしている役割の中には、人間社会においても役立ちそうなものも多くあります。実際に、タンパク質を細胞の外に出して、人間社会に役立てて使用することを「タンパク質の実用化」と呼びます。例えば、ある種の微生物は、難分解性の有害物質を分解する能力を持っています。この微生物から、有害物質の分解に関わるタンパク質を取りだし、環境浄化や下水処理に使用するのです。既に実用化されているタンパク質もいくつかあります。身近な例では洗濯洗剤が挙げられます。テレビのコマーシャルで「酵素パワー」という言葉を聞いたことがあると思いますが、酵素は触媒能を持ったタンパク質のことです。洗剤の主成分は界面活性剤ですが、界面活性剤だけではなかなか汚れを落とせません。そこで、洗剤にタンパク質分解酵素や脂質分解酵素などを混ぜた酵素入り洗剤が開発されたのです。また、タンパク質の一部を改変することで機能を高め、量産することも試みられています。特に、タンパク質の実用化においてしばしば問題となるのが、安定性の悪さに起因する寿命の短さですが、現在では様々な方法により、タンパク質の安定性を高めることが可能となっています。このように、タンパク質の性質を都合よく改変してしまう技術のことを「タンパク質工学」と呼びます。タンパク質工学を発展させ、タンパク質の実用化を促進することが、省エネルギーで環境にやさしい社会をつくるための鍵となるかもしれません。(赤沼)

 

食欲の調節について




『東京薬科大の一番人気!
マグノリアのからあげ定食』

 私達はお昼時になるとお腹が空き、食事がしたくなります。このような食欲はどのように調節されているのでしょうか。
 まず、私達の食事について考えてみましょう。動物は、自ら炭酸同化をしてエネルギーのもとを作り出すことはできない従属栄養生物です。そこで、エネルギーや栄養を得るために食事をします。しかも、食べていない時間もエネルギーを使えるように貯蔵できる形に変換し、筋肉、肝臓、脂肪細胞など に貯蔵しています。空腹時はこれらの貯蔵されたエネルギーが使われます。
 さて、食欲はどこで調節されているのでしょうか。食欲の調節には脳が関与しています。脳の視床下部には2つの中枢があり、「お腹が空いたな」とか「お腹がいっぱいだな」などの信号をキャッチします。すなわち、視床下部に摂食中枢と満腹中枢があり、胃が空っぽになり、胃がキューっと収縮し、お腹がグーと鳴ったら、摂食中枢が働いて食欲がわきます。逆に、胃が食べ物で満たされ拡張したり、食べ物が消化して血液中のブドウ糖濃度が最も高くなる時は満腹中枢に働きかけ、摂食を抑えます。
 一方で、脂肪細胞に脂肪が蓄積すると、「レプチン」というホルモンが分泌され、視床下部にある受容体に働きかけ、食欲を抑えます。それと同時に交感神経に作用して、エネルギー消費を促します。このようにして、動物は食べる量を抑え、エネルギーの過剰な蓄積を防ぐことができるのです。
 このメカニズム以外にも動物の食欲は様々な調節が行われていて、ストレスが関係する調節もあり、まだ全ては明らかになっていません。将来は、食欲を調節する薬ができるかもしれませんね。(梅村)

 

シアノバクテリアの進化と葉緑体


 その昔、シアノバクテリアが真核細胞に内部共生し、それが葉緑体へと進化した、つまり植物が誕生したとされています。その根拠の一つが、光合成系がシアノバクテリアと葉緑体とで似ている点が挙げられます。両者とも、チラコイド膜を持ち、そこで光化学系 I 等から構成される光合成の電子伝達系により、光エネルギーを ATPやNADPHといった化学エネルギーに変換します。次いで、可溶性画分である葉緑体ストロマあるいはシアノバクテリア細胞質にて、その化学エネルギーをもとに二酸化炭素を固定し、有機化合物を合成していきます。
 現存するシアノバクテリアのうちGloeobacterは、 rRNA遺伝子の分子系統学的解析から最も原始的とされています。おもしろいことに、このGloeobacterはチラコイド膜を持たず、細胞膜に光合成電子伝達系を保有しています。さらに、チラコイド膜特異的な脂質、スルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)が欠けています。おそらく、誕生した当初のシアノバクテリアは、Gloeobacterに似た特徴を示していたのでしょう。こうして見ると、葉緑体が誕生するまでの過程をひもとくには、単にシアノバクテリアの共生とその後の変遷だけでなく、共生する以前のシアノバクテリアの進化も考えていく必要がありますね。(佐藤)
植物の誕生                                

 

牛を殺すプランクトン




ガス胞をもつシアノバクテリアの大量繁殖,いわゆるアオコ現象は世界各地の湖沼,ダム,貯水池で発生して問題になっています. 
(写真、国立環境研の河地正伸氏ホームページより許可を得て転載 )

 植物の葉には、ホウレンソウやキャベツのように食品となっているものもあれば、タバコの葉のように食べると命に関わるような毒を持っているものもあります。プランクトンであるシアノバクテリアも、古くから、水前寺海苔やスピルリナなど、栄養価の高い食品として食べられてきましたが、毒を持っているものがあります。新聞などで、時々、シアノバクテリアが大発生して被害が出たと報道されていますが、どんな悪い事をしているのでしょうか?   
 特に夏に、アオコと呼ばれるミクロキスティスの大発生が起こります。ミクロキスティスは、野外の淡水湖や池に生育していて、普段はまばらに生育しているため、水質に影響を与えることはほとんどありません。しかし、時々、大量発生してアオコと呼ばれる状態にまで、増殖します。ミクロキスティスは人や動物にとって有害なミクロシスチンと呼ばれる毒を作るので、注意が必要です。アオコの発生した池の水を飲んだ牛や馬が死んでしまったという話は古くからあり、人が中毒を起こして苦しんだという記録もあります。毒の本体はアミノ酸が7つ環状に結合したペプチドで、リボソームでのタンパク質合成とは異なる別の仕組みで酵素によって作られます。(岡田)

 

鉄鉱石と生物


糸状性シアノバクテリア

糸状性のシアノバクテリア

 身の回りで使われている鉄は、大部分が輸入された鉄鉱石から、製錬されて、様々な形に加工されて使われています。鉄鉱石は、地球の火山活動などで 作られたのではないかと思っている人も多いと思いますが、実は作られる過程で生物が重要な役割を果たしています。その生き物とは、どういう生き物でしょうか? 
 現在、製鉄で使われている鉄鉱石は、シアノバクテリアという、植物プランクトンが作ったことが、分かってきました。昔は、鉄は海中に大量に溶けていました(当時は、大気中の酸素の濃度は今よりも低く、鉄は鉄イオン(Fe2+)として、水に溶けていました)。ところが、シアノバクテリアが光合成を行って酸素を作り始めると大気中の酸素濃度が上がってきて、鉄はその酸素で酸化され、酸化鉄に変わっていきます。こうして作られた酸化鉄は、 水に溶けにくく沈殿するため、海の底に酸化鉄が沈殿し続け、堆積して、長い時間かけて水成岩となりました。この岩は縞状鉄鉱床と呼ばれて、大規模なものが オーストラリアなどで見られます。(岡田)

 

プロトプラスト(protoplast)と 細胞融合



プロトプラストの顕微鏡写真。
プロトプラストは一個の細胞から出来ています。プロトプラストの中に見える沢山の小さい粒は、葉緑体です。

 protoplast(英語)の日本語訳は、原形質体ですが、カタカナでプロトプラストと表記される場合も多くあります。植物細胞、細菌、菌類などでは、細胞は外側を細胞壁により覆われています。その細胞壁を酵素処理により取り除いた細胞を、プロトプラストと呼びます。 
 植物ではペクチナーゼとセルラーゼにより、細胞壁を構成するペクチンとセルロースを分解して作製します(環境応答植物学研究室作成 実習動画 参照)。プロトプラストにした細胞どうしを融合させる事ができ、融合後、融合細胞から一つの個体として成長させたものにポマト(ポテトとトマト)、オレタチ(オレンジとカラタチ)などがあります。ポマトは一応、根にイモが、地上部には実がなりますが、どちらも今一つ美味しくないそうです。オレタチは、商品化される話があるそうです。
 動物細胞は細胞壁が無いので、プロトプラストを作らなくても細胞融合ができます。細胞融合の応用例としては、ガン細胞のどんどん増える性質と、抗体産生細胞の抗体を作る性質を併せ持った細胞を細胞融合によって作り、ほしい抗体をたくさん作る技術が確立されています。こうして作られた抗体はモノクローナル抗体と呼ばれ、たくさんの種類のモノクローナル抗体が作られていて、抗体でガン細胞の増殖を抑えるなど、治療にも応用されています。(岡田)

 

ミジンコの生殖(単為生殖と有性生殖)(ミジンコ動画


 ミジンコは生息する湖沼の環境が良いときは、単為生殖という方法で卵(単為生殖卵といいます)を産み、子孫を増やしています。この単為生殖は子孫を増やす際に雄を必要としません。つまり卵と精子の受精は起こっていません。そのため非常に効率よく多くの子孫を増やすことができます。そして、この時の子孫は全て雌です。これを雌性単為生殖といいます。これは、魚などに捕食されるミジンコにとってはとても理にかなった子孫の増やし方といえます。しかし、ミジンコが増えすぎたり、餌がなくなったり、水温が下がったり、日が短くなったりとミジンコにとって生息する環境が悪くなるとミジンコは雄を産むようになり、雄と雌の間で耐久卵という受精卵を作ります。このミジンコの耐久卵は乾燥に強く長い年月が経っても環境が良くなれば、また発生が進み雌のミジンコになります。ミジンコはこのようにして環境の変化に応じて巧みな生殖方法とることで種を維持していく戦略をとっています。(時下)

 

                                

 

地球上で最も多量に存在する脂質って何?


 森林の面積は、世界の陸地の3割を占め、特に日本では国土の7割に相当します。このことからも推察できますが、植物に特異的に存在する脂質が、地球上で最も多量に存在する脂質となります。植物葉緑体内で光合成の電子伝達系や光リン酸化反応を担うチラコイド膜は、植物の膜系のうち、最も豊富に存在します。したがって、チラコイド膜に最も多く含まれる脂質、モノガラクトシルジアシルグリセロール(monogalactosyl diacylglycerol, MGDG)が、地球上で最も多量に存在する脂質と言われています。なお、チラコイド膜を含め葉緑体の膜系の脂質は、主にMGDG等の糖脂質で構成されており、動物等の非光合成生物の膜脂質が主にリン脂質であることと対照的です。植物は、生育する土壌環境中のリン源が不足しているため、リン脂質よりもむしろ糖脂質を合成するよう進化したのではと考えられています。(佐藤)

 

微生物の数



バイオフィルムの顕微鏡写真。
微生物を蛍光色素で染色。

 微生物はどこにでもいます。例えば、皆さんの肌1cm2には1000匹以上の微生物がいます。川や海の水1 ml中には少なくとも10万匹の微生物がいます。土1 gの中には数億匹以上の微生物がいます。さらに、皆さんの腸の中には約100兆匹の微生物が住んでいるといわれていますが、人間の細胞の数が約60兆個ですので、それよりはるかに多い微生物が私たちの体内で暮らしていることになります。つまり、日ごろは目に見えないので気付くことがありませんが、微生物は地球上のどこにでもおり、我々は微生物と密に付き合いながら暮らしているのです。
 微生物とは、顕微鏡などを使わなければ見えない小さな生物の総称です。これには後生動物、原生動物、真菌類、細菌(バクテリア)など様々な生物が含まれますが、数として最も多いのはバクテリアです。今までに10000種程度のバクテリアが培養・保存されてきていますが、最近の研究では、これは環境中のバクテリア種の0.1%にも満たないと推定されています。動物や植物の種は数十万から100万程度ですので、それよりはるかに多様なバクテリアが地球上に存在することになります。これらのバクテリアは、多様な能力を持っています。例えば、酸素がなくても死なないもの、100℃以上でも生育するもの、石油を食べるものなど。最近、有機物を燃料に発電するバクテリアも見つかってきました。一方、依然として地球上に存在する微生物の大部分(99.9%以上?)は未知のものです。未知の微生物にロマンを求め、新しく発見された微生物を我々の生活に役立てようとする、これが微生物学の醍醐味です。(渡邉一哉)


 

シカラクトンはオグロジカの"香水"フェロモン?




 多くの生物はフェロモンという化学物質によって同種間のコミュニケーションを行っています。有名なのはカイコガの性誘引フェロモンとして知られたボンビコールであり、雌のカイコガから放出されたボンビコールによって雄のカイコガが誘引され、雄は翅をばたつかせながら雌に向かってゆきます。 オグロジカは北米に生息するシカの仲間であり、哺乳類におけるフェロモンの社会行動学的研究がよくなされている動物です。オグロジカにはシカラクトンと呼ばれる揮発性の誘引フェロモンが知られています。シカラクトンは、ふ骨腺と呼ばれるオグロジカ後肢のかかと部分の皮膚に存在する分泌腺にあって、誘引されたシカの群れは、お互いのふ骨腺を嗅いだりなめたりする行動をおこします。ふ骨腺には多数の他の化学物質が存在し、こうした化学物質が個体の識別や、群れの仲間の認知、優位劣位の確認などの社会組織に関係したメッセージ(すなわちフェロモン)として働いています。こうしてシカラクトンによって誘引されたシカが、他のメンバーのふ骨腺を嗅いだりなめたりすることで、お互いを知る手段としています。ところで、面白いことに、シカラクトンはふ骨腺から分泌されるのではなく、シカの尿に由来しています。シカは、排尿の際に両方の後肢をこすり合わせること(摩擦排尿といいます)でシカラクトンをふ骨腺に運びます。摩擦排尿は、子ジカが生後2日目には早くも始めるし、性別、年齢に関係なく様々な状況で行うそうです。シカラクトンはオグロジカにおける"香水"といったものではないでしょうか。(中野)


 

ミジンコ研究の歴史(ミジンコ動画


 「科学史」を中学/高校で習った方はご存知だと思いますが、「顕微鏡/microscope」は1590年頃にオランダの眼鏡製造者であるヤンセン親子が発明したとされています(別説もあり)。1665年に発刊された、イギリスの博物学者であったロバート・フックが著した『顕微鏡図譜/Micrographia』には、薄切りにしたコルクを顕微鏡観察したスケッチが掲載されており、この観察から『細胞 (cell)』という概念が提唱されたというのは余りにも有名な話です(ちなみに『顕微鏡図譜』の初版本は、東京薬科大学も所蔵しており、本学図書館・情報センターで折りにふれ実物が公開されています)。
 オランダの比較解剖学者であったヤン・スワンメルダム(Jan Swammerdam: 1637-1680)は、1658年に世界で初めて「赤血球」の顕微鏡観察および記述をしたことで有名です。彼は43年という短い生涯に3冊の本を著していますが、その内の1冊が、フックの『顕微鏡図譜』から4年後の1669年に出版された『昆虫学総論』(もしくは『一般昆虫学史』/原題は"Historia insectorum generalis")です。この本に収録された数々の「昆虫図譜」は精緻を極め、現代の我々の眼から見ても感嘆すべきものですが、その中には「現存する中で最も古い」と考えられているミジンコの顕微鏡によるスケッチも含まれています。


ミジンコ


 2匹の親ミジンコの間に子供のミジンコが描かれているのが何とも可愛らしいですが、その形態の特徴からこれらがDaphnia属 のミジンコであることは明らかです。また本文中には「体が透明で腸、足、尾、卵が外から見える」ことや「大きく枝分かれした肩と腕の中に眼と吻が見える」ことなどが既に述べられています。つまり今から340年以上も前からミジンコが研究者の目を引いていた事が分かる、非常に貴重な資料であると言えます。もっとも現在ではミジンコはエビやカニと同じ甲殻類生物であることが分かっていますので、厳密にはスワンメルダムが考えていたように『昆虫の1種』ではないのですが(「分類学の父」カール・フォン・リンネの『自然の体系/Systema Naturae』が出版されたのは1735年のこと)。
 ちなみに1669年は、日本の暦で言えば寛文9年。江戸幕府4代将軍・徳川家綱の治世で、紀州の豪商・紀伊国屋文左衛門が生まれた年でした。またエレキテルで有名な平賀源内(1728-1780)は、家財をなげ打ってオランダ博物学関係の洋書を集めていたそうですが、彼が『紅毛虫譜』と呼んでいた1冊は、実はスワンメルダムの『昆虫学総論』だったそうです。「異才の人」平賀源内がどのような気持ちで、このミジンコのイラストを眺めていたのか、本当に興味深いですね。(志賀)

 

太古の地球で植物プランクトンから石灰岩が作られました! 



円石藻(えんせきそう)
Pleurochrysis haptonemofera

 今から1億年前の地球は中生代白亜紀(7000万年~1億5000万年前)と呼ばれています。そのころの地球は現在よりはるかに暖かく、陸、空、そして海まで恐竜が支配していました。一方、海洋では多くの植物プランクトンが 盛んに光合成をしていたと思われます。その中で、円石藻という、細胞一個からなるプランクトンも大発生しました。円石藻の細胞表面は石灰質1)の鱗片(小さなうろこのこと、円石とよばれます)で覆われています。円石藻が海底に沈み、堆積して円石が残り、白亜(石灰岩)の地層を形成したのです。「白亜紀」と いう名はこの地層に由来します。この地層が見られる場所として有名なのは、イギリスのドーバー海峡に面した数キロに及ぶ美しい白亜の岸壁です。直径 10 μm2)あまりの小さな円石藻が溜まって化石となり石灰岩の地層となったのです。今の地球でも、北大西洋に分布するEmiliania huxleyiという種は、その種だけで年間1億トン以上ものCO2を炭酸カルシウムとして沈着していると見積もられています。黒板に書くチョークという言葉はこの白亜に由来したものです。(藤原祥)
1) 炭酸カルシウム(CaCO3)   2) 1 μmは千分の1 mm

 

石油のもとは植物プランクトンだったということをご存じですか?




Pleurochrysis 
円石藻のSEM画像

 今から約1億年前の中生代白亜紀(7000万年~1億5000万年前)に円石藻が大発生して石灰岩の地層が作られたことは前に書きましたが、円石藻から石油が作られたこともわかってきました。石油の起源は何かという問題は、長い間謎でした。どうやら時代ごとにさまざまな生物が石油の起源となっていたようです。たとえば中東のような中生代の石油は円石藻由来のものが多 く、サハリンやカリフォルニア、秋田、新潟など新生代に作られた石油は主に珪藻(ケイソウ)の仲間由来のものが多いと考えられています。円石藻の細胞は石灰(炭酸カルシウム)のりん片(小さなうろこ)で、珪藻の細胞はケイ酸質の殻で覆われています。走査型電子顕微鏡で観察すると、ともにとても美しい植物プランクトンです。まさに自然の芸術と言えましょう。(藤原祥)

 

森林の中に入ると涼しいのはなぜでしょう?


 森の中を歩くと涼しくさわやかです。森林の枝や葉は日光を遮断し、森林内の温度が上昇するのを 防ぎます。樹木は、根から吸い上げた水分を葉から大気中に蒸発させます。これを蒸散(じょうさん)と呼び、気化熱によって森林内は涼しくなります。雨は、 樹冠の葉でとらえられ、静かに樹幹を流れます。重なるようにしげる葉や、複雑な形をした幹から水分が蒸発し、これらの気化熱によって森林内はますます涼し くなります。林床には落ち葉が厚く積もり、熱を地中に伝えるのを防ぎます。森林からは、このようにして冷たい水が流れます。森林浴は、涼しいだけではな く、樹木が発する防菌物質のフィトンチッドのため健康によいとされています。(東浦)


生態学
 

森林の林床に落ち葉がたくさん積もっているのはなぜでしょう?


 森林の林床には落ち葉が厚く積もり、歩くとふかふかして気持ちの良いものです。落葉広葉樹林の生産量を調べた結果を紹介しましょう。1年間に展葉し落葉してくる葉の量(乾燥重量、以下略)は1m2当たり300gです。この内の2%、6gが食葉性昆虫によって食べられます。食葉性昆虫の量(現存量)は、1m2当たり0.12gで、葉の量に比べるとわずかです。葉を食葉性昆虫に食べられないよう樹木が防御物質を葉に含ませて防衛している結果です。防御物質にはアルカロイドやタンニンなどが知られており、薬品としても利用されています。防御物質は落葉するときに樹木に回収され、落ち葉は分解されやすくなっています。落ち葉を食べて分解する土壌中の小動物、ミミズやトビムシ、ササラダニなどの現存量は1m2当たり1.9gと食葉性昆虫の10倍以上です。これらの土壌動物によって落ち葉は植物が利用できる栄養分に分解されます。これに対して、海藻の茂ったところでは落ち葉はほとんどありません。森林とは違って、海藻を食べる、ウニやアワビなどがたくさんいて直接食べられてしまい、落ち葉が海に積もることはありません。この点が、同じ植物の林でも、樹木の林と海藻の林との大きな違いです。(東浦)

生態学